その中で合理的配慮について利用者の方から相談を受け、障害特性を踏まえて企業へどのような合理的配慮を申し出ると良いかを一緒に考えてきた経験があります。
この記事では実際に求めた合理的配慮の事例を紹介していきたいと思います。
合理的配慮とは何か?
まずは合理的配慮について簡単に説明していきたいと思います。
合理的配慮は「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」の中で保障されています。
障害者差別解消法は2016年に施行され、差別解消のため「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」の2つを定めています。
障害者差別解消法では合理的配慮について以下のように定義されています。
合理的配慮
合理的配慮とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。
そして、「障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うこと」としています。
また2021年5月の改正によって、これまで合理的配慮は国や自治体は義務、民間事業者は努力義務となっていたものが、今後は民間事業者も義務として、これらの合理的配慮の提供が求められることとなります。
一方、障害者雇用促進法は2013年の改正によって、差別禁止と合理的配慮の提供義務が加えられました。
雇用の分野においては、以下のような理由から合理的配慮の提供は全事業主の義務となっています。
ポイント
・障害者権利条約で「職場において合理的配慮が障害者に提供されることを確保すること」とされていること
・雇用は障害者の自立や社会参加にとって極めて重要な分野であること
・労働者と事業主とは雇用契約における継続的な関係にあること
・一般に労働者は事業主の指揮命令下にあること
合理的配慮の対象者は誰?
障害者雇用促進法では、「障害者」の定義を以下のように定めています。
障害者の定義
身体障害、知的障害、発達障害を含む精神障害、その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者
障害の原因及び障害の種類は限定されていません。
また障害者手帳を所有していなくても、その障害が長期にわたる又は永続するものであり、かつ職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な場合は、対象となる障害者に含まれます。
合理的って誰が決めるの?
「もちろん障害者!」
「いやいや、配慮をする事業者側でしょ?」
どちらの声も聞こえてきそうです。
障害者、事業者どちらか一方の申し出や事情のみを考慮するものではなく、相互の丁寧な対話の中からお互いに理解を深め、納得した上でその手段や方法、代替手段の検討されたものが合理的配慮なのです。
かわいいパンダの赤ちゃんが生まれたと聞いて三銃士のメンバーで動物園に行ったとしましょう。
もし、パンダのお部屋の柵がこのような板でできたものだったらと想像してください。
実際、板ってことはまずないですけどね(笑)
ポイント
・背の高いサイトスはかわいいパンダの赤ちゃんを見ることができます。
・ピアトスはギリギリ見えるかどうかです。
・私、メントスは全く見えません・・・。
さて、こんな時どんな配慮をしたら全員がかわいいパンダを見る機会を得ることができるのでしょうか?
・足元に台を置くこと
・板を金網にすること
・板をガラス張りにすること 等々
色々な手段が考えられますよね。
それぞれの手段を実施するためには必要な資金にも差がありそうです。
事業者によって実施に伴う負担が過重と感じることもあるかもしれませんね。
また必要としている配慮はその人の障害の程度やその場の状況などでも変化するものなので、一つの正解があるわけではありません。
障害者と事業者が対話をしながら一緒に検討していくことが合理的配慮なのです。
いつ申し出たらいいの?その後の流れは?
合理的配慮は相互の丁寧な対話の中からお互いに理解を深め、配慮を実施していくものだとわかりました。
では、いつ申請をすれば良いのでしょうか?
そして申請後はどのような流れとなるのか見ていきたいと思います。
step
1障害受容・自己理解をする
申請を行う前に、事業者に対しどのような申請をするべきか、まずは整理する必要があります。
そのために必要なのが自己理解です。
これまでの自分自身の就業の様子を振り返りながら、どういった点が難しいと感じたのか、どんな時に体調が悪くなったのか、通勤中困ったことはなかったか等細かなことも含めて全てあげていきましょう。
step
2自己対処法を考える
次にそれらの困り感に対して自分自身で対処できることはないかを考えます。
耳から聞いた情報を理解しにくかったり、忘れやすい➡メモを取り確認できるようにしたり、視覚的な情報とする。
STEP1で書き出した項目に対して、自分自身で対処できることは何か、セルフケアだけで解決するのか、配慮を求めたいのかを整理していきます。
step
3申請したい配慮をまとめる
申請内容は「いつ、だれが、どのように、なにをしたらよいか」企業側に具体的に伝わるようにまとめていきます。
就労移行支援等の就労支援機関を利用している場合は支援員にも相談しながらまとめていくと客観的なアドバイスももらえて良いと思います。
step
4必要な配慮に関する意思表明をする
ここまでのSTEPでまとめてきた
1.自身の仕事上の困り感
2.自己対処法
3.依頼したい配慮事項
について、応募書類に記載したり、面接の際に申し出ます。
step
5事業者との話し合い
申し出た配慮事項について、事業者と話し合いを進めていきます。
意向を十分に尊重した上で、講ずることとした措置の内容(又は障害者から申し出があった具体的な措置が措置を講ずることができない旨)を伝えることとなっています。
依頼した配慮が、資金力等のなどの様々な理由から、過重な負担に当たると判断された場合には、可能な範囲での配慮案が事業者側から提示されることもあります。
step
6配慮の実施
合理的配慮は、障害のある方だけでなく、職場全体の生産性を高めます。
丁寧に対話を重ねることで誰もが働きやすい職場環境に整えられていくのです。
step
7定期的な評価と見直し
合理的配慮については、定期的な評価・見直しの実施が可能です。
事業者との定期的な面談や評価面談の機会をもち、現状、働くうえで支障はないか検証し、双方にとって合理的な配慮を実施することで長く定着した就労となるよう対話を重ねていきましょう。
合理的配慮の事例
採用時における合理的配慮
面接時における支援者の同席
面接官との意思疎通に支障が生じる可能性がある場合、当事者と面接官の意思疎通を補助し、また当事者の障害特性等を面接官に伝えてもらうため、面接時に就労支援機関の職員等の同席を認めてもらう。
事業者側にとっても採用に当たって障害者の特性を理解することはとても重要なため、これは多くのケースで配慮していただくことができた事例です。
適切な面接場所、面接方法
障害の特性によっては、面接のセッティング方法によって過度な緊張や不安を感じるため、人の出入りがない落ち着いた場所で面接を行う、集団面接は実施しないなどの配慮を申請する。
視覚障害者や聴覚障害者に対する配慮
募集内容について音声ソフトや点字を利用した会社説明会などの開催や筆談や手話での面接などの依頼を行う。
]聴覚、言語機能、音声その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある方に対して、手話通訳者や要約筆記者を派遣する意思疎通支援事業を利用して、面接時に同席してもらったことがあります。
派遣は無料で利用できるため、このケースも配慮いただけることが多いのではと思います。
採用後の合理的配慮
出勤時間や業務量等の調整
障害特性によっては、混雑時の出勤が難しかったり、業務量や職責などが負担になる場合も多い。
体調に波があることを理解してもらい、必要があれは休憩を取ったり、通院・服薬のしやすい環境を整えてもらう。
配慮の依頼をするだけでなく、対話を通して信頼関係を築くことが大切です。
情報の伝え方の工夫
曖昧な指示では伝わりにくい場合があるため、業務指示を明確、簡潔にしてもらう。
あたりまえの配慮のように感じる方もいるかも知れませんが、こういったことを双方で確認し合うことが大切です。
合理的配慮のまとめ
双方にとって合理的である配慮は、障害者が苦手を軽減したり、不安を解消することにつながるため結果的に継続した就労につながるためどちらにもメリットのあることです。
こんなこと言ったら「わがまま」だと思われるかな?
採用に不利なるんじゃないかな?といった心配は要りません。
ただし、それは合理的配慮を求めるためのしっかりとした準備をした上での話です。
自分一人で準備を行うことが難しいと思われる場合は、就労移行支援や転職エージェントなどの利用をおすすめします。
就労移行支援事業所選びに失敗したと感じている利用者の声で多く聞かれるのが「事業所の雰囲気が自分には合わなかった」「自分の受けたいプログラムがなかった」「障害の特性を考慮してくれなかった」といったものです。
就労移行支援事業所は、自主的な活動を中心とした所から、障害の特性に合わせた個別サポートを強化している所まで様々。事業所選びに失敗しないためには、「自分の通える範囲にどんな事業所があるのか」をしっかりと調べることが重要なのです。
就労移行支援は原則2年しか利用できないサービスなので、事業所選びに失敗したくはありませんよね。
資料請求や、見学を行って事業所を比較するところからはじめてみましょう。
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